とある朝、子牛の誕生に1人で立ち会うことになった。
酪農家が外出中だったのである。
牧場で見付けた時には、既に母牛は出産を終え、呑気に木の下で子牛と一緒に横たわっていた。
それも子牛は1頭でなく、2頭。双子であった。そのうち、1頭は元気に立ち上がって、母牛の周りを飛び回っていた。しかし、もう1頭は横たわったまま体を震わせていた。
「…一体どうすれば良いのか!?」正直、焦った。「何とかしたい。でも何をすべきか分からない。」
ひとまず酪農家に連絡を取ろうとしたが、繋がらない…。
そこで、これまで酪農家が対応する様子を見てきたこと、覚えていることをやってみることにした。
まずは、母牛にお湯と餌を与え、子牛が飼育される檻に新しいワラを敷いて、子牛を移動させることに。
…と思いきや、生まれたての子牛と言えども、牛は牛。その体重は既に40キロ程あります。抱き上げて台車に乗せようとしたのですが、抱き上げられず、牧場の真ん中に立ちすくんでしまいました。
これから「生きよう」としている新しい命を助けられない自分が情けなくて、悔しくて、悲しくて…、涙してしまいました。
気を取り直して抱き上げようと悪戦苦闘しているうちに酪農家が帰宅し、子牛は酪農家によってヒョイッと抱き上げられ、小屋へ連れて行かれました。
これにて一件落着。
…と思いきや、心配していた双子のもう1頭。
小屋に移動させたものの、体を横たわらせ震わせたまま数時間後、息を引き取りました。目の前で息を引き取られ、またもや無力な自分に涙してしまいました。
新しい命の誕生、そして命の終結に立会う中で、自然の営みや生きることの壮絶さを感じます。また、自分自身の命についても色々と思いをめぐらされます。両親を初め、これまで幾人の力によって生かされてきたのか、そして今を生かされているのか…。そんな中、この貴重な命を無駄にしないよう、大切にして生きるにはどうしたら良いのか…。