その183:牛さん(アメリー)

とある日の正午、牧場をのんびり見渡していたら、突然、20頭ほどの牛が丘を駆け下りていく光景を目にした。

「な、なにごとか…。」と少し驚きながらも、「仔牛だろうな…。」と薄々気付いていた。

そう、丘の下で仔牛が誕生し、牛たちが寄ってたかって行ったのである。

そんな牛の群れに近づくと2頭の仔牛を見つけた。2頭ともに歩いたり、尻尾を振って座っていたり…元気そうである。

「お母さんは?」と周囲にいた牛の夫々のお尻には、出産する際に出てくるものが確認できなかった。

そして、その群れから数十メートル離れた先に一頭の牛が横たわっていた。よく見ると出産する際に出てくるものがお尻に確認できた。

母牛はアメリーであった。

しかし、仔牛の様子から産後数時間は経過しているであろうに、一向に立ち歩く気配が感じられなかった。

「きっと双子を出産して疲れているんだろうな…。」と素人的な考えでいた。

そこにプロの酪農家…。「まずい。」と一言。

「出産による高熱が原因で動けなくなっている。このまま動かないと体がしびれ、立ち上がることができなくなる。」とのこと。

そこで、まずは適当な薬を点滴によって注入し、体を立ち上がらせようと試みた。

が、起き上がろうとするものの、完全には立ち上がることができなかった。

次の手段として、トラクターの先端に後ろ足の付け根を持ち上げることを試みた。

何度か体を起こそうともがいた末に…、4本の足が地に立った瞬間は「やったー!」と思わず叫んでしまった。

そのままアメリーは立ち上がって、草を食べ始めた。

その時、すでに夜の8時を周り、辺りが暗くなっていることから、その日は、そのままアメリーを牧場に放置し、朝に様子をみることに。ただ、1頭では心細いだろうということから、他の牛たちも牧場で夜を過ごさせることにした。

そして、翌朝…。

1本の木の下、他の牛に囲まれて、口をもぐもぐさせている元気なアメリーを見て、今度は思わず「よかった。」とガッツポーズをとってしまった。