その118:人々(ヨハネス)

過去6年間、船の建設にたずさわってきたという現在26歳のヨハネス。

数ヶ月前、働いてばかりの生活に疑問を抱き、一旦、職から身を引くことに。以来、農家でボランティアしたり、山へ登山に出掛けたりしながら、次の生活を模索中。

「船を建設することは好き。でも新しい働き方、生き方を見つけたい。」というのが胸の内らしい。

似たような経歴や思い、考えを頂いているフィリックスとヨハネス。

「家を建てたり、船を作ったりすることは好きだが、ボスに急かされて働きたくはない。」という。

「生活の一部としての仕事」というよりも「仕事中心の生活」となりがちな現代社会。はたしてそこには、生き方に納得したり、生きる喜びを感じたりする余裕はあるのだろうか…。


その117:人々(フィリックス)

190cmの長身はフィリックス。

高校卒業後、お祖父ちゃんが大工だった影響もあり、大工として3年間働いていた。「もっと、もっと。早く、早く。」とボスに急かされながら働くことに嫌気が差し、退職。

「ボスに雇われるのではなく、自立できるように資格を得よう。」と思い、大工の専門学校へ入学。単位や試験の為だけに勉強することに疑問を抱き、入学後1年してから、しばらく学校を離れることに。

今は「来る一年間は“どんな生き方がしたいか“問答する為に費やそう」という心意気。「家を建てることは好き。でもお金の為に働いたり、資格の為に勉強したりする気はない。」という。

先日「ここの生活みたいに“労働の変わりに食事と寝床を得る生活”もアリだと思う」ともらしていた。

そんな彼の口癖「I do not want to live for a piece of paper.(一枚の紙切れの為に生きるのはゴメンだね)」と。

若干21歳の彼ではあるが、現代社会に対して鋭いポイントを突いている気がする…。



その116:人々(リナータ)

リナータは(なんと!)54歳のドイツ人の女性。不動産関係で働くかたわら、旦那さんと4人の子供を持つ。

今回ボランティアをするにあたって、若夫婦が「寝る場所が確保できない」と伝えたところ「私なら大丈夫、車の中で寝れるから」と返答したという。結局は家の一室で寝ることになったけど…。

また、家から400キロ離れた道のりを一人で運転して来たという。

パワフルなドイツ人女性にビックリ。

ただ、薪を移動させていた際に肩を痛め、予定より早く帰宅することになってしまった。


その115:人々(ヘレン)

滞在している農家には、数日間から数週間、私の様なボランティアにやってくる。

そんなボランティアの年齢や国籍は様々。この農家に行き着いた理由も様々。

そこで、幾人かの背景を紹介…

最初に出会ったボランティア、ヘレン。

フランスとドイツの国境近くの小さな街からやってきた。

現在、21歳。この春フランスでの大学を終え、来秋からドイツの大学院への入学を望んでいる。ドイツ語とコミュニケーションを学びたいらしい。

環境問題に関心があり、将来は環境に優しい製品を海外で販売するビジネスウーマンになりたいとのこと。

フランス語はもちろんのこと、ドイツ語、英語を比較的堪能に話し、片言の日本語も話す。以前にドイツで3ヶ月間の語学学校に通ったり、日本に1ヶ月間のホームステイをしたりしたことがある。

よく笑い、よく話し…、とてもフレンドリーである。





その114:ネアンデルタール人の洞窟

現在、滞在しているところから歩いて15分もしない所にネアンデルタール人が使用していたと言われる洞窟がある。現代人の祖先であり、数万年前に生存されていたと言われるネアンデルタール人。

高さ数十メートルの洞窟。いくつか異なる洞窟があり、中には直径20メートル程のものもある。






その113:ワイン置き場の整理

一昔前までワイン作りが盛んだった地域。古い農場には、必ずといって良い程、ワイン置き場がある。石壁で作られた幅3m、高さ2m程の小さな室内。壁の石や床の土の効果からか、年間を通して室内の温度はある程度一定に保たれるという。

この小さな農場にもワイン置き場はある。しかし、今は物置として使われている。

そんなワイン置き場の整理をとある日にした。数十年間手付かずにされていたのか、一昔前に使われていた農具を含め、今日では珍しいアンティークの品々が発掘された。




その112:作業場の整理

家の修繕や農具の修理には、木を切る機械や釘を打つハンマーを使ったり、保管したりする作業場が必要である。

9ヶ月前に引っ越してきてから一度も整理したことがないという半屋外の作業場。木の破片や工具で散乱していた。そんな作業場の整理には丸2日を要した。

大きな機械や工具を移動させたり、保管するものと処分するものに分けたり、更には大きなバケツにまとめて保管されていた釘やネジを同じ長さ毎にまとめたり…。

そんな作業中に百年もしくはそれより前に作られたであろう金の指輪を発掘した。また、床の石ころの1つは数億年前、この地が海の下であったことを証明する生物の化石が見つかった。これだから古い家の片付けは面白い。




その111:円形の薪積み

ここでの暖房は薪を燃料としている。

そんな薪は敷地内を開拓する際に切った木々を割って円形に積まれて保管されている。

円形の薪積みは北欧式。内側より外側部分を高めに積み、中心部には小さな枝や変わった形の薪を入れていく。

今回は円形に積みながら、最終的には三角屋根の家の様な形にして、木の皮を屋根に見立てたいという旦那さん。

…単純な作業に聞こえるが、実際は容易ではない。現に一度、頭の高さまで積まれていた薪がバランスを崩し崩壊した。また、三角屋根の形にするには、他の手法が考えなければならなかった。

一つ一つを確実に斜めに積み、重みの位置を意識しながら積んでいくことがポイントであり、焦らず根気強く積む必要がある。

畑作り同様、生きる上で何か大切なことがここでの一つ一つの作業には感じられる。





その110:ワゴンの家

羊が飼われる草原と小川の間には、長さ7m程のワゴンがポツンと置かれている。数十年前まで電車の車両として使われていたもの。

将来的に室内に洗面台や薪ストーブを設置し、ベッドを置いて小さな家となる予定。その為には、痛んだ外装や内装を改装するだけでなく、新たに水道や電気を通したりする必要がある。

まずは外に張られた木製の壁を外す。ネジで留められた一枚一枚の板を外していくのである。錆びたネジを取り除くことは容易ではない。時には機械を用いて、鉄製のネジを切る必要がある。またハンマーで木の壁を破壊する必要もある。

次に防水用のカバーで周囲を覆う。大きな一枚のカバーでワゴンを覆うのである。

それから、新たな木の板を貼り付ける。一枚一枚適当な大きさに切り、下部の高さを揃え貼り付ける。まずは釘で軽く打ちつけ、後にネジで固定させるのである。

貼り付けられた木をペンキで塗る必要もある。天気をうかがいながら、晴れの日に茶色いペンキを塗る。

ある程度、外装が改装されたら、電気のワイヤーを通したり、保温材を貼り付けたり、内装の作業に取り掛かる。発泡スチロール製の保温材を隙間の無いように適当な大きさに切り貼り付けていくのである。

取り掛かり始めてから数週間が経過した今もなお作業は続いている。

ワゴンの室内から窓を通して眺める小川の流れや木々、丘の景色、また聞こえてくる水の流れや鳥の声は心を落ち着かせる。完成が楽しみである。






その109:モンゴル式テント

モンゴルの砂漠に暮らす遊牧民。彼らが家として建てるのは移動式の大型テント。

そのテントを中古で入手した。直径10m程の広さがある為、人々を招いてワークショップを開催したり、私のようなボランティアが寝泊りしたりして使う予定である。

「移動式テントと言われるには、毎回、設置したり、畳んだりすることが容易に出来るように作られているはず…」という予想に反して、その設置には2週間強を要した。一度だけ設置したことがあるという旦那さんの記憶が確かでなかったり、土台作りや床張りは初めてだったり…、その原因は様々。しかし、結果的には室内に薪ストーブ付の立派なテントが設置された。

モンゴル式テントの大まかな作り方…

1)地面を平らにする(既に高い位置の土を低い位置へ移動させる)
2)木のフレームを置く(高さが均等になるように必要に応じてフレームの下に石を置いたり、土を盛ったりして調整する)
3)テントを張る(まずは木のドアに繋げた格子状の柵を立て、2本の支柱に支えられた屋根の棒を付け、上部・周囲を防水布で覆う)
4)床を張る(フローリング用の板を一枚一枚ハンマーで打ち付ける)
5)余分な木のフレームを切る
6)薪ストーブを設置する

ちなみに現時点においてマイナス20℃に達することがある冬の寒さに耐えられるかは不明である。屋根や壁に厚手の覆いが必要になるかもしれないとのこと。

完全なる完成ではないが、すでに10人前後を招いてワークショップを催したり、5つほどのマットレスを敷いて寝泊りしたり…、重宝されている。












その108:養羊用の芝生

飼われている羊は3頭。余計な草を食べてもらったり、後に食肉として食したりする為である。

とある場所の草がある程度食べ尽されると新たな場所へ移動させなければならない。そして、しばらく時間を置き新たな草が育った頃に元の場所へ移動させる。つまり、羊の飼育には、大量の草が育つ広大な土地、もしくは交代して草が育つように幾つかの土地が必要なのである。

ここでは3匹の羊は数週間毎に20m四方程の異なる区域へ移動させられる。

とある日、新たな移動先となる芝生を整備することになった。過去2年間、手付かずとなっていた土地。雑草が生い茂り、石や木の枝が散乱していた。将来的に同じ場所を使い続けることを考えると、芝刈り機が使えるよう、背の高い植物を切り、地面に落ちている石や枝を除ける必要があった。

大きな木の株を掘り起こしたり、薪用の木を移動させたり、石を取り除いたり…。またまた丸一日の作業となった。しかし、その代わり映え様は見事であり、一日の終わりに皆、達成感を感じていた。






その107:更に新たな畑の開拓

更に新たな畑の開拓。今回は、ラズベリーなどのベリー用と野菜用の畑である。畑の横に丘を登る石段も築く予定である。

すでに幾つかのベリーは植え付けられていた。しかし、その背後にはタイル屋根の山。横には壁の保温材の山。30年ほど前に暮らしていた人が新たな家を建てるつもりで購入し、保管されていた場所だったらしい。しかし、何らかの理由で家を建てず放置されていたのである。

そこで、まずは大方の雑草を抜いた後、タイル屋根を移動させる作業に取り掛かった。何枚かが重ねられていたり、土や根と半一体化していたり…。1mほどの山が3山ほどできる程のタイルが1日と半日をかけて掘り出された。

それから保温材を処理するのにも半日を要した。植物の繊維からできた保温材。肌に触れるとチクチク痛い為、やっかい物である。その量、30Lサイズのゴミ袋が15袋程。ごみ処理場に引き取ってもらうのに60ユーロの支払いが生じた。

大方の廃棄物が処理され、茶色い土が見られるようになった土地。丘の下部に位置するため、土地の半分が斜めになっている。そこで、位置が高い部分から低い部分へ土を移動し、平らにならさなければならなかった。

そして、ようやく土を起こして、種や苗を植えた。

現在、順調に育つ植物の横に、石段が少しずつ完成に向けて建設されている。

「土台」や「始まり」の大切さを身にしみて感じた畑作り。きっと畑だけでなく、他の事柄にも言えること。始めは苦労を要するかもしれないが、一度しっかりとした基礎を築くことによって、後々の成長に差が出てくるということ。

果たして今の私には過去に苦労して築いた基礎があるのだろうか…。



その106:新たな畑の開拓

すでに開拓された畑を広げることにした。

畑作りをあまりにも楽しみにしていた旦那さんが勢い余って植え付ける場所を考慮せずに大量に苗を買ってきてしまった為である。

ちなみに、ベルギーのホームセンターの苗の値段を聞いてビックリ。なんと30本程のネギの苗が1ユーロ。その他の葉物の苗も101ユーロ~3ユーロ程である。すでに3房ほどの実が成っているブドウの苗は6ユーロ。この価格からもついつい大量に買ってしまうかもしれない。

畑を広げる作業は掘る作業よりも、新たに土を盛る作業がメインとなった。周囲に石壁を作り、そこに他から運んできた土を盛るのである。そして、新たにセロリとコールラビの苗を植え付けた。